เข้าสู่ระบบその後、俺たちは黒い渦を探して瓦礫の中をさまようこととなった。
一時間、二時間、いや、もっとだろうか。流石にそれくらいになると空は闇に染まり、不気味なほど真っ暗な世界が辺りを支配する。 ただ、対称的に星の輝きは凄まじかった。生まれてこの方一度も見たことのない満天の星空が圧倒的なまでに輝いている。 月明かりがなくても問題ないほどの、星々の宝石が空一面を覆っていた。 光害がない時代の空は、こうだったのだろうか。夜なのに前が見えるのだ。勿論夜の暗さはあって、そこは由那の用意してくれたライトのお陰で何とかなったが、それにしても明るい。 昔の人たちがライトもないのに夜道を移動できた謎が解明できた気分だった。 しかし。 「えーと、確か……ここら辺……あ、あれ?」 黒い渦は、どこにもなかった。 「何があると言うんだね?」 「ない……えと、た、確かに俺はここから来た! その、はずだ……」 記憶を辿る。俺がこの世界で最初に見た風景。それは確かここだったと思う。どこもかしこも瓦礫とひび割れた道路しかなく、目印らしきものなんかないけれど、それでも若干の違いはあって、それが合致するのはここのはずなのだ。 しかし、周囲をどれだけ探しても、黒い渦はどこにもなかった。 「何もないねー」 いずみがぼそっと言った――途端、 「ケッ、おいてめえ。人に期待させるだけ期待させやがって!」 面木がいきなり俺の頬にパンチを繰り出してきた! 「グッ!」 あまりに鋭くて、あまりに痛くて、何が起きたかわからない。気づいたら俺は吹っ飛ばされていた。後になってじんじんと頬に焼けるような痛みが走る。 困惑に頭をフラフラさせる俺。面木はそんな俺の胸倉を掴み上げ、ギロリと鷹のような視線でねめつけてくる。 「ぶっ殺してやる」 「やっちゃえ面木くん!」 花香がはやしたてる。やばい。まさかいきなり殴ってくるとは思わなかった。 と、墓川が慌てて俺と面木の間に割って入る。 「やめないか面木! だが田下くん。二度とパラレルワールドがどうとか言わないでくれたまえ。いいか?」 「…………」 この状況で嫌だとは、とても言えなかった。 でも、それを承諾する勇気もなくて黙っていると、今度は墓川が俺の胸倉を掴んでくる。 「いいか」 やたらドスの利いた声で、面木とは別の恐ろしさがあった。 たまらず、俺は、 「……わかった」 そう、頷くしかないのだった。翌朝、俺たちは畑仕事に精を出していた。 校庭を鍬で耕し、畑を作る。これは全員がやる――わけだが面木と花香はいなかった。場にいるのは俺、いずみ、由那、墓川の四人のみ。あの二人はサボりったらしい。 校庭の土は硬く、中々ほぐれない。何でも以前はラストフィナーレによって発生した塩害が酷く、それを取り戻すために半年を要したという。最近になってようやく耕せられるまでに回復させたのだと。 ラストフィナーレ――破局的天変地異によって日本列島は一度あらいざらい流されたという。 潮汐力を失った海と超大型台風、それと大地震が重なって生まれた水害は大地を死滅させた。 さらにダメ押しとばかりに富士山が噴火。その灰が大地にふりかかり、現在宮一以外の大地で耕作することは不可能だという。 宮一の校庭だけは墓川がありとあらゆる手を尽くし被害を最小限まで食い止めたのだそうだ。もっともそれでも塩害やら火山灰やらが酷く、復帰まで半年を要した。 月がただなくなっただけ。それっぽっちのことで、人類は死滅したのだ。 しかし俺の落ち込みはそこではないし、まして畑仕事の疲れでもない。 昨日、黒い渦がなかったことだ。どうしてなかったのか。わからない。あそこにないなら一体どこにあるのか。探したい。あちこちくまなく探索したい。けれど墓川は勿論、面木や花香も認めてはくれないだろう。 その後悔が、ずしんと背中にのしかかっていた。 「そう気を落とさないでよ」 俺の横で鍬を振るういずみがなぐさめるように言ってくれた。彼女の栗色の髪の毛が風にゆられてそよそと揺れる。綺麗だった。 もっとも、それはただの同情であって、俺の心を癒すには足らない。 「う、うん。でも……俺は……俺は……」 「まあさ、そういうことを期待しちゃう気持ちはわかるって。私もさ、半年前は毎日そうだったよ。毎日泣いてた。みんなそう、最初は泣くんだよ」 「…………」 「春弥がこの半年どうやって生きてきたかはわからない。聞かない。でも春弥は記憶を壊して生きてきたんだと思う」 「そう、なの……か?」 俺の記憶はあるんだ。鮮明に。ただそれ
その後、俺たちは黒い渦を探して瓦礫の中をさまようこととなった。 一時間、二時間、いや、もっとだろうか。流石にそれくらいになると空は闇に染まり、不気味なほど真っ暗な世界が辺りを支配する。 ただ、対称的に星の輝きは凄まじかった。生まれてこの方一度も見たことのない満天の星空が圧倒的なまでに輝いている。 月明かりがなくても問題ないほどの、星々の宝石が空一面を覆っていた。 光害がない時代の空は、こうだったのだろうか。夜なのに前が見えるのだ。勿論夜の暗さはあって、そこは由那の用意してくれたライトのお陰で何とかなったが、それにしても明るい。 昔の人たちがライトもないのに夜道を移動できた謎が解明できた気分だった。 しかし。 「えーと、確か……ここら辺……あ、あれ?」 黒い渦は、どこにもなかった。 「何があると言うんだね?」 「ない……えと、た、確かに俺はここから来た! その、はずだ……」 記憶を辿る。俺がこの世界で最初に見た風景。それは確かここだったと思う。どこもかしこも瓦礫とひび割れた道路しかなく、目印らしきものなんかないけれど、それでも若干の違いはあって、それが合致するのはここのはずなのだ。 しかし、周囲をどれだけ探しても、黒い渦はどこにもなかった。 「何もないねー」 いずみがぼそっと言った――途端、 「ケッ、おいてめえ。人に期待させるだけ期待させやがって!」 面木がいきなり俺の頬にパンチを繰り出してきた! 「グッ!」 あまりに鋭くて、あまりに痛くて、何が起きたかわからない。気づいたら俺は吹っ飛ばされていた。後になってじんじんと頬に焼けるような痛みが走る。 困惑に頭をフラフラさせる俺。面木はそんな俺の胸倉を掴み上げ、ギロリと鷹のような視線でねめつけてくる。 「ぶっ殺してやる」 「やっちゃえ面木くん!」 花香がはやしたてる。やばい。まさかいきなり殴ってくるとは思わなかった。 と、墓川が慌てて俺と面木の間に割って入る。 「やめないか面木! だが田下くん。二度とパラレルワールドがどうと
「そしてその数少ない生還者が君というわけだ。どうして生き残ったかを、そして他にも生還者がいるのかを本来訪ねようと思ったが、その記憶喪失は恐らく他の精神的ショックも関連していると思う」 「墓川、それ以上は聞いちゃダメだよ」 「わかっている。僕もそこまでデリカシーのない男じゃない。だから君のことは問わない」 正直記憶が混乱しているとは思っていなかった。 だから聞かれてもショックはない。ただ、それは言わなかった。そんなことを言ったところで聞き入れて貰えるわけがないとわかっていたからである。 「だが、我々は生きていかねばならない。幸い彗星メギドは地球には激突しなかった。この荒廃はあくまで月を失ったことによる大噴火、大地震、大津波、台風、その他様々な自然災害が最大規模かつ全世界で同時発生したことによるものだ。無論尾が地球をかすめた際もかなり影響しているとは思う。あれだけで一億人以上が死んだ。一時的に酸素がなくなったからな」 「富士山まで噴火したからねー。もう富士山ないんだよ。燃え尽きちゃった」 「日本列島の三割が、海に、沈んだ」 いずみと由那が続いた。 日本列島の三割が沈んだ? 月がなくなっただけで? にわかには信じられない。 「本当に唐突だった。尾が大気をかすめ、酸素が一時的になくなって我々は酸欠になり、倒れた。意識を取り戻した後に待っていたのが、無数の天変地異だ。気づいたら世界は瓦礫に埋まり、助ける余裕もなかった」 墓川が苦しそうに言う。家族を助けられなかったことへの悔しさがにじみ出ていた。 ただ、そんな中にあって面木と花香は平然としている。 「ケッ、だからなんだよ。くだらねえ」 「ねー、くだらないよねー面木くん」 「月を失うだけでそんなになるんだ……」 「我々も知らなかったよ。月がそこまで大切なものだとは思わなかった。だが、それでも我々は生き残った。我々の目的は一つ」 墓川は一呼吸置き、キッと強く瞳を輝かせて、 「文明を再興することだ。水を引き、生き残った家畜を育て、農耕を行い、田下くん、君のような生還者を探して仲間を増やし、一から人類をやり直す
重くなった空気が不吉なガスのように充満していく。 そんな空気を、いずみが制した。 「ま、まあまあ。そうだ墓川、春弥は記憶が混乱しているんだから、もう一度この状況を教えてあげた方がいいんじゃないかな?」 助かった。おそらく場にいる全員がそう思ったことだろう。墓川はあからさまに顔色を明るめて、ぐいっと身を乗り出す。 「ふむ、それもそうだな。田下くん。ラストフィナーレは覚えているか?」 「いや、そのラストフィナーレとかいうのを含めて何もわからないんだけど」 「そうか、そこまで記憶が損傷しているか。なら最初から説明しよう」 墓川は深呼吸を一つして、ゆっくりと語り出す。 「全ては半年前のことだ。彗星メギドが月に衝突し、その尾が地球をかすめたことが全ての原因だ。覚えているかね?」 「い、いや……月にぶつかったのか? 地球じゃなく」 墓川は頷く。 「ああ、月にぶつかったんだ。彗星メギドだが、最初のニュースが七ヶ月前だった。ハワイにある小惑星地球衝突最終警報システムでアトラス彗星が発見されたことに端を発する」 「小惑星地球衝突最終警報システム? アトラス彗星?」 「ハワイにはさ、小惑星が地球に衝突しないか観測する天文台があるんだよ。アトラス彗星ってのはまだ固有名前のついてない彗星のこと。それも忘れちゃった?」 「いや、忘れたというか」 知らない。そんな出来事、俺の人生で一度だってない。しかも半年? 俺は四日前まではごく普通の世界で暮らす、平凡な高校生だったのだ。知るわけがない。 だからこそ、確信する。 この世界は――俺の世界ではないと。 墓川は続ける。 「そのアトラス彗星は当初は地球への衝突可能性は非常に高いと報道され、世界中がパニックになった。だがすぐさま衝突の危険性はないと撤回したのだ」 「陰謀論が湧いたよねー」 いずみがお湯でコーンスープの粉末を溶かし、由那に配りながら言った。各自回していけということだろう。 「ん」 と、由那が俺にコーンスープを差し出してくれた。 「あ、ありがとう
この世界において変なことは他にもある。 日没がとても遅いのである。 七月だからと日が長いのは当たり前だが、それでも夜の九時近くにならないと日が完全には沈まないのだ。 この世界特有の現象かと最初は思ったが、そうではなく、世界が崩壊してからそうなってしまったとのこと。 箱船の壁に掛けられている時計を見ると夜の七時半。しかし空はまだかなり明るく、夕方にすらなっていなかった。 奇妙な空での夕食。今日は焼き肉ということもあり、箱船のメンバーはがつがつと無心で肉をむさぼっている。味わうということは誰もしていなかった。皆ひたすらにむさぼっていた。 ただ会話がないかというとそうでもなく、特に俺のようによそから来た人間の情報は知りたがっているようで、俺は可能な限り伝えることにした。 ――が。 「異世界?」 墓川が肉を咀嚼し終えると、訝しそうにそう訪ねてきた。 俺は皿の上に肉と箸を起き、首肯する。 「ああ、色々考えたんだけど、それしかありえないと思うんだ。俺が家の玄関を出るまでは世界は普通だった。黒い渦みたいなのがあって、そこを通ったらここに来ていたんだ」 「それで?」 何故か、墓川の声が冷たい。目も細くなり、瞳からは光も消えかかっていた。 もっと驚いたり、あるいは喜んだりするかと思ったが、この反応は意外である。 「だからさ、逆に黒い渦を通れば戻れるんじゃないかなって」 「どこにあるのー?」 いずみがちょいちょいと肘でつついてきた。 「いや、それが……そのことに気づいたっていうか思い至ったのが今日で、それは失敗したと思う。だから明日さ、それをみんなで探さない?」 俺としては妙案だと思った。 誰だってこんな世界で生きていくのはまっぴらに決まっている。 だから一緒に賛同してくれる。そう、考えたのだが―― 「ナンセンスだ。現実逃避はよしたまえ」 面川が俺から目を反らし、呆れまじりにそう言ったではないか。 「いや、信じて貰
食料を倉庫に並べ終え、僕たちは箱船の中へと避難する。中に入るとどこから見つけてきたのか火鉢の熱がほんのわずかに俺たちを包み込んでくれた。正直火鉢の効果がどれほどのものかはわからない。でも、気休めにはなるだろう。 そんな火鉢で炭をいじっている、やはり俺たちど同年代の男性。彼は冬服の制服をまとっていた。学ランで、首のフックもしっかりと留めている。真面目くんだ。彼は顔を上げながら、 「戻ったか」 と訪ねてきた。 「うん、聞いて墓川、由那がお肉を見つけたんだよ!」 いずみの言葉に、短髪で細身の男――墓川有志ががたっと片膝を立てて目を丸くさせる。 「肉だって? まだあったのかそんなもの。香坂と田下くんは?」 「私はスーパーから缶詰二十個と、あと農家の地下室から野菜を少し見つけてきた」 「種子は?」 「いくつか」 「よし、冬が本格化する前に畑を耕して冬明けには農業を始めたい。いつまでもスーパーや民家の食料品を漁っているわけにはいかない。田下くんの成果は?」 「え、えーと、……缶詰、十個ほど」 俺は目を反らしながらぼそっと答えた。 墓川はどっかと座り直し、火箸を手にとって炭をいじりながら深いため息をつく。 「田下くん。新参者だからと言って甘やかす余裕は僕たちにはない。ラストフィナーレによって世界は滅びたのだ。食料を獲得することは義務だ。そうしなければ死んでしまうんだ」 箱船の中で火鉢をいじっているだけのくせに、とは言わない。 何故なら。 「墓川は?」 いずみの質問に、墓川はふん、と鼻を鳴らす。 「水を汲んできだ。今裏で煮沸している。明日は畑作りを再開する。僕だって休んだりはしない。そんな余裕はない」 そう、このように墓川だって遊んでいるわけではないのだ。 むしろ逆。墓川は箱船にいる六人の中で一番働いている。あの火鉢だってあくまで電気もなく灯油もない状況下で少しでも部屋を暖めようとするためにやっていること。あまり温かくはないけれど。 墓川が火箸を置いて立ち上がると、俺の前まで歩み寄り、厳しい視線を向けてくる。 「田下くん。よって